ドーハで開かれているワシントン条約締結国会議にモナコやEUが提出していた大西洋マグロの国際取引を禁止する案が、大差で否決されました。クロマグロの大消費国である日本の不利が伝えられていただけに、地中海を含む大西洋産クロマグロの国際取引を禁止するモナコ案のみならず禁輸実施まで1年の猶予を設けるとしていたEU案まで大差で否決されたことに、ヨーロッパでも驚きが広がっています。日本のメディアは連日「お寿司屋さんからマグロが消える」と煽り立てていましたので、マグロ好きの方々はホッとされていることでしょう。
ことの正否はともかく、マグロをワシントン条約の対象として管理するということに違和感を感じている方も多いのではないでしょうか。ワシントン条約は、絶滅の危険がある野生動植物を国同士が取り引きする場合のルールを定めたもので、正式名称を「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」といいます。ワシントン条約には、国同士の取引を制限する必要がある野生生物のリスト(附属書)が付いています。このリストは「附属書 I 」「附属書 II 」「附属書 III 」の3つに分かれています。付属書Ⅰは今すでに絶滅する危険性がある生き物 、Ⅱは国同士の取り引きを制限しないと、将来、絶滅の危険性が高くなるおそれがある生き物、Ⅲはその生き物が生息する国が、自国の生き物を守るために、国際的な協力を求めている生き物という分類になっています。
パンダ、トラ、ゴリラなどは付属書Ⅰにリストアップされていますが、今回否決されたモナコ案ではクロマグロもⅠへ追加しようというものでした。クロマグロの数が減少しているのはたしかのようですが、付属書Ⅰに追加するほどその減少は切迫したものなのでしょうか。このあたりに違和感を感じる原因があるように思います。
今回のクロマグロ騒動も残念ながら経済的側面から捉えるものでした。本来この種の問題は、経済的な問題を抜きにして、対象となった種の保存に必要な施策か否かをまず考えるべきです。また、水産資源については、各国の食文化とも密接に関わる問題なので、他国の事情もよくよく理解する必要があります。その意味で、今回のマグロ騒動は、生物多様性の問題とも密接に関わるものです。今後とも注目していきたいと思います。
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