今、取調べの可視化、公訴時効の見直しとともに法務省政策会議で議論されているのが、夫婦別姓の問題です。鳩山総理は基本的に選択的夫婦別姓に賛成する旨発言され、千葉法務大臣も今国会に法案を提出したいと考えています。しかし、国民新党の亀井大臣が予算委員会でも反対の立場を表明されていることから、今後この問題は連立内でも議論を深めていかねばなりません。そこで本日は、「夫婦別姓」問題のこれまでの流れを簡単にご紹介します。
選択的夫婦別姓制度とは
現在、姓については民法750条に「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。 」旨規定されています。結婚する際に、夫か妻のどちらの「氏」を使用するかを決めることになっていますが、実際に妻の「氏」を名乗るケースは3%程度と言われています。戦前のように妻は家庭に入り家を守るという思想が主流であった時代は、さして問題はなかったかもしれません。しかし、女性の社会進出が進むにつれて、結婚を機に「氏」が変わると仕事上不便が生ずると感じる人が増えてきました。また、離婚をした女性が、旧姓に戻るのは自らの離婚を発表をするようで苦痛だという意見もあります。そこで、婚姻時に希望すれば、夫と妻の両者とも婚姻前の「氏」を名乗ることができるようにしようというのが夫婦別姓という制度です。すなわち、夫婦別姓にするか、それともこれまでのように夫婦は「氏」を統一するかを選択できるようにしようというのが、選択的夫婦別姓制度です。
平成8年の法制審議会答申
民法の一部を改正し選択的夫婦別姓を導入しようという動きは、平成8年の法制審議会の答申によって高まりました。本答申による法律案要綱では、夫婦の「氏」について以下のような規定が盛り込まれました。
一 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称する ものとする。
二 夫婦が各自の婚姻前の氏を称する旨の定めをするときは、夫婦は、婚姻の際に、夫又は妻の氏を子が称する氏として定めなければならないものとする。
ポイントは、①結婚するときに夫か妻の「氏」を名乗るか、それとも各自の「氏」を名乗るか決めること、②夫婦別姓を選択した場合、結婚するときに将来生まれてくる子供の「氏」も決めておかなければならない、ということです。
本答申をもとに当時の与党自民党内で議論が重ねられましたが、夫婦別姓に対する反対は根強く、結局法案が国会に提出されることはありませんでした。
民主党が過去に提出した法律案
民主党では、過去に何度も夫婦別姓を盛り込んだ民法の改正案を衆参議院に提出してきました。直近では昨年4月に社民党等とともに改正案を参議院へ提出していますが、この案の概要は以下のようなものでした。
夫婦の氏
一 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称するものとする。
二 改正法の施行前に婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、婚姻中に限り、配偶者との合意に基づき、改正法の施行の日から2年以内に別に法律で定めるところにより届け出ることによって、婚姻前の氏に復することができるものとする。
子の氏
一 別氏夫婦の子は、その出生の際に父母の協議で定める父又は母の氏を称するものとする。
二 一の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、協議に代わる審判をすることができるものとする。
三 別氏夫婦が共に養子をする場合において、養子となる者が15歳以上であるときは、縁組の際に養親となる者と養子となる者の協議で定める養親のいずれかの氏、養子となる者が15歳未満であるときは、縁組の
際に養親となる者の協議で定める養親のいずれかの氏を称するものとする。
この案は、選択的夫婦別姓を導入する点では平成8年答申と変わりはありませんが、子供の「氏」については出生時に決めることとされ、しかも子供毎に夫の「氏」とするか妻の「氏」とするかを決めることができる制度となっています。したがって、兄弟でも「氏」が違うというケースも生じることもあり得ます。
政策会議での議論
現在、政策会議で議論されている案は、平成8年答申に沿った形で民法及び戸籍法の一部を改正しようというものです。ポイントは、①夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の「氏」を称し、又は各自の婚姻前の「氏」を称するものとする、②子(兄弟姉妹)の「氏」は統一する、③別氏(同氏)を選択後に同氏(別氏)への変更は不可とする、の3点です。
昨年、民主党が参議院に提出して案と比べると子供の「氏」を統一するという点が異なります。これは、夫婦だけでなく兄弟の間でも「氏」が違うとなると、家族の一体感がより希薄になるとの危惧を意識して盛り込まれたものです。
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