昨日に引き続き、可視化の話をします。
可視化に反対する人々の言い分
冤罪を防止するには極めて有効な取調べの可視化ですが、警察、検察の捜査をする側は可視化に強く反対しています。なぜでしょう?捜査側の主張は、概ね次のようなものです。
取調官は容疑者の生い立ちや家庭環境・境遇などを聞きながら、理解や同情を示し信頼関係を築いてゆく。この過程の中で容疑者に心を開かせて悔悟と反省を促し、事件の真相を少しずつ語らせてゆく。ところが、この会話の中には、容疑者以外の人々のプライバシーや他人に聞かれたくないことも多く含まれるのが通常である。全面可視化になると自分のしゃべった内容が公判ですべて明らかになってしまう可能性が出てくるので、それを恐れて口が重くなってしまう。その結果、事件の真相解明に悪影響を及ぼすことになる。また、暴力団などが絡む組織犯罪では、首謀者や共犯者について供述したことが後で分ってしまうと報復のおそれがあるので、さらに被疑者が真相を語る可能性が低くなるというのです。
たしかに一理あるように思えます。自白調書に書かれている内容は、取調官と被疑者の会話のすべてではありません。調書に記載されない多くの会話が交わされていたことは想像に難くありません。
捜査側が長年にわたり蓄えてきた取調べテクニックや手法が、可視化の導入で使えなくなるとすれば、たしかに事件の解明に影響が出てくることも考えられます。
全面的可視化をすべきか
冤罪事件は決して多発するものではありません。そう考えると、めったにない事件のために日々起こっている多数の事件で、取調べがやり難くなるというのは問題です。しかし、無実の人が犯人とされることだけは、断じて防がねばなりません。
日本国憲法は、人を個人として尊重することを原則としています。そうだとするならば、何万、何十万という事件の中のたとえ一件であろうとも、冤罪により苦しむ人を出してはならないと考えます。
また、捜査側から見ても可視化は決してデメリットばかりではないはずです。公判で取調べの違法を主張するのは、無実の人だけではないからです。裁判を長引かせ判決を遅らせようとして、取調べの違法を主張することもあり得るからです。このような場合には、可視化は検察側の強力な武器となるはずです。
プライバシーの保護や組織犯罪での被疑者の保護については、録画の開示の仕方等で工夫をすれば、解決できる問題なのではないかと考えます。
可視化は先に述べた適正手続きを担保することにもなりますので、是非実現してゆきたいと考えています。
一部マスコミの的外れな批判
最後に一言だけ付け加えたいことがあります。一部のマスコミが、取調べの可視化を実現する法案提出の動きに対し、小沢一郎幹事長が検察をけん制するために行っているかのような報道をしています。しかし、検察の追及の手を緩めるために法案の提出を準備しだしたなどということは、断じてありません。
民主党は、2007年6月に発表した「重点政策50」の中でも取調べの可視化で冤罪防止を唱っていますし、2007年と2009年の2度にわたり「刑事訴訟法の一部を改正する法律案(取調べの録音・録画による可視化法案)」を参議院に提出しています。いずれも参議院では可決したものの、当時民主党は衆議院では少数派だったために残念ながら廃案となってしまいました。このように、何年も前から民主党では取調べの可視化が実現するように努力を重ねてきたのです。これらの事実を無視して「検察への報復」などと決めつけるのは、的外れと言わざるをえません。
ブログを読んで下さった皆様には、このことも是非ご理解いただきたいと思います。
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